手紙


最後のものたちのくにで/ポール・オースター
幼なじみ、元彼(?)にむけた手紙というか手記のような。
大江健三郎でいちばん好きなのは『同時代ゲーム』。「妹よ、…」って始まる、そのへんな文体というか独特の癖のある語り口調が、豊かな神話世界の陰影を濃くしている、「ダライ盤」とか「隠遁者ギー」「アポ爺ペリ爺」ってキャラクターが、過去(記憶、伝承)を手紙という形で第三者に(この場合は妹に)追想、表記する方法をとることで生き生きとしてくるっていうか。親密な相手に向けたプライベートな記述であるがゆえに、油断じゃないけど、無意識の欠落、だだ漏れ感が、かえって読む側の空白部分を埋める誘惑を加速するスイッチになってるというか、どっか人の手紙を盗み読んでいるような疼きが内包されてるせいというか。
なんかその変な感じ、ちょっと靄がかかってる、エコーがかかって聞きとりづらい感じが似てて、「走者団」やら「カートを押すゴミ漁り」「聾唖の召使いの(面白がらせようとしているのか怖がらせようとしているのか判断がつかない)オペラのパントマイム」がより鮮やか色褪せたモノクロの感を出している。
小説家の「何を書くか」と同時に「どうやって書くか」っていうフォーマル(形式)な関心は、ちょっと絵画っぽい。
でもこれ作者と同じくらい翻訳者のファインプレーだと思う。