夏の思い出


その夏、友人とその妹と三人で、用水路を遡上して行きながら度々その水を飲み「美味い!甘い!」とその魔法の水脈を探し求める探検ごっこに夢中になっていて、道路に寝そべるよりももっと低い視点から見慣れたはずの風景の異形さを仰ぎ見て楽しんでいた。その日は、いつもよりもっと先へ探索を進めてみることになり、今まで躊躇していた水の流れる土管の中を進んで行く事になった。カビくさい暗渠を抜けると突然、甘酸っぱい、ツーンと鼻につく芳醇な香りが立ちこめ、目の前には樹液を滴らせている櫟の巨木が現れる。その木には昼間だというのにカブトムシ、クワガタ、カナブン、蝶、蛾、スズメバチがうなりをあげながらたかっていて、自分たちはその光景に、奇跡の木を発見した喜びに打ち震え、スズメバチに追い立てられこけつまろびつ逃げながら「この木は3人だけの秘密の木にしよう!また別の日にカブトムシを捕りに来よう!」と固く誓い合った。
次の夏、自分は別の友人を連れてその場所へ行きカブトムシを捕った。