寿司屋


カウンターの目の前には透明なガラスケースの冷蔵庫があって新鮮な魚介類が並んでいる。けど、少し様子がおかしいのは何故か板前方には小さなカーテンがかかっていて、つまりケースの中は客側からは見えるが板前方向からは見ることが出来ない仕組み。その都度、カーテンを少しだけ開けて扉を開け、ネタを取り出すのだけれど、度々間違えて再度反対側の扉を開けるなど、見ているこちらが焦れったい。そもそもカーテンなどつけなければ目視で確認、すぐ目当てのネタも取れるだろうに。けれど思うにその不便さをもっても変えがたい、耐えがたい過去があるのではないだろうか。つまりはこういうことだ。彼は、本来的な寿司職人の修行を経験してこなかった。母親が始めた居酒屋を年頃になって手伝うようになり、その上で見よう見真似で覚えた自己流。それでもなんとか上手くやっていた。ところがある日、通ぶった無粋な客に包丁捌き、握りの手順について酷評され、うちのめされ、萎縮し、それからは客から手元が一切見えないよう鉄壁のカーテンを吊るし始めたのだ。まあ良く分からないけど。労働の日はたまに寿司屋さんに連れて行ってくれることがある。