インビジブル淵


釣具屋のおやじは小学生の自分達に、鯉の釣れる穴場があるよ「ミナゲイワ」っていう所、と地図を描いて熱心に勧めてくれた。そこは川の淵、木が覆い被さる様に茂っていて昼間でも薄暗く、水面は油の様に静かに黒く、そして大きな岩が川に半身突き出している。ヌシの様な大物のいる気配が濃厚だけれど、反面その岩から足を滑らせればそのまま川にどぼんで、湾の様に入り込んでいる地形だから対岸の限られた場所からしかこちらは見えない。人目につかない場所、声をあげても届かない場所。
なにしろ薄気味悪いので早々に帰った。
後に聞けば「ミナゲイワ」とは「身投げ岩」で、つまりはいわゆるところのそういう場所で、それにしても釣具屋のオヤジはなぜ子供たちだけでそこに行く事を熱心に勧めたのだろう。