古刹


その神社と同じ敷地にあるその寺は、昔は仲睦まじく共存し、江戸時代までは観光客でたいそう賑わっていて古歌に詠まれる程の名所であったけれど、なんでも明治廃仏毀釈運動で焼き討ちに合い凋落していったそう、今では唯一残った庫裏がその面影を残している、なんて神社でもらったパンフレットには書いてはあるけれどそこへ行く道は皆目見当たらない。それでもたしかにこのへんかな、といままで薮だったと思っていたところ、たしかに切り通し、石段が続いている。けど薮は背の丈まであって数ヶ月は人が通った気配はない、っていうか入ってくるなって暗黙のメッセージ。でも入ってしまった。薮が茂っていたのは手前数メートル、奥に進む程樹木の影が濃くなり薮草は減っていく、替わりにビールの缶、ワンカップ瓶、弁当の空き殻、その他もろもろ塵芥が散乱腐乱。石段をのぼりきったところで小広場に出て、なぜかそこも木が覆い茂り薄暗い、というかそもそも夕方近いので昼間はどうかわからないけど。で、件の建物はその広場の奥の奥、そもそも石段にゴミが散乱しているところからして異様なのだがその庫裏も異様も異様、雨戸がはずれ朽ち崩れるにまかしてあるそこから覗き見える室内には大量のゴミが渦高く積まれてていわゆるゴミ屋敷的な。そこにきて、なんかやばいって思った。で、一目散に来た道を帰ると待ってた友人が、あまり斯様な空き家に無闇に近寄ってはいけない、なぜなら良くないモノが集まっているのだからと肩口からフッと息を吹きかけてくれ、それが何やらおまじないというか邪気のようなものを払ってくれたみたいでとても安心した。で、自分は常々、物事を真剣に取り組んでいないというか後先を考えずなんとなくフラっと行動する癖があってそういうのはおいおい直さなければいけないと帰りしな思った。