台湾6(自分探しの旅・台中)




ホテルで朝食を済まして、ただ無目的に町を歩く歩く。
いいかげん疲れてきて、ガイドブックに載っていた写真がちょっといいなぁと思って「彩虹眷村」へ行ってみることにする。できればバスで行きたいので書いてある通りに新烏日駅(高鐵台中駅)まで出てバス停を探す。ところが無茶苦茶バス停があってどれに乗れば良いか皆目分からない。バス停前のおじさんに聞いてみるが何か鬱陶しそうにあらぬ方向を指差して何か言うから、うわ〜、怖〜、ってなってとっとと退散する。今度は優しそうなおばさんに聞いてみると、流暢な英語で教えてくれるがこれは自分の英語力では何を言っているのかよく分からない。多分、そこへ行くバスは当分来ないからタクシーで行けと言ったのだろうと解釈してタクシー乗り場へ行く。タクシー乗るの嫌だなぁ、と心がくじけそうになったけどせっかくここまで来たのだからと叱咤激励し客待ちしているタクシーに乗る。紙に書いた「彩虹眷村」を見せると「OK、OK」とか言って車は走り始める。見た所50代なかばの髪の薄くなりかけたおじさん運転手が、片言の英語で、私は日本人は初めて乗せたよみたいなことを話しかけてくる。で帰りも送るから彩虹眷村で30分待ってるから、他、行くきたいところがあれば連れて行くからねと言う。いや、自分はこの村で1日過ごすよ。スケッチ道具を持ってきたから木陰で村の絵を描くよ、サイケデリックな壁画を模写するよと断った。
走り始めてものの10分くらいで目的地に着く。するとそこは自分の想像していた村ではなく、街中に突如現れた異形空間、息を止めたまま一周できるくらいの邸宅。







描かれた壁画は非常に興味深く、どこか遠くへ連れ去られそうな迫力があったのだが、ここは若者グループ・カップルの撮影エリアとして有名らしくごった返している。黄色い嬌声が空気を震わせている。歩くにも撮影の邪魔にならないよう度々待たねばならず立ち止まると後がつかえる。人気スポットは順番待ちで列をつくっている。一人で来ている中年男性は他にはおらず、間違って乗り込んでしまった女性専用車両のようなバツの悪さ、居心地悪さから15分位でギブアップしてしまう。

タクシーに戻ると、おじさんはほらすぐ見終わっただろうみたいな顔をしている。で特に他行くところは決めていなかったので、台中に戻って、先日勧められたイトウタカオ設計のオペラハウスでも行ってみようかと聞いてみるがそこは知らないと言う。弱ったなぁとガイドブックをペラペラしてると、ここは行けるよと嬉しそうに「高美湿原」を指して言う。値段を聞くとここから1時間位で片道1,000元、そこから台中のホテルまで1,000元、合計2,000元と言う。あ、じゃあ駄目だ。手持ちは1,000元しかないから、と言うとしょんぼりする。自分と同程度かちょっと上くらいの片言英語で、時にiPadの翻訳を駆使しながら一生懸命コミュニケーションしてくるこのおじさんに次第に好感を持ってきたので、クレジットカードは使えるか?と聞くとOK、OKとふたたび顔を輝かせる。ま、どうせする事ないし2,000元は贅沢だけどこんな機会滅多にないだろうし流れに乗っかってみるのもいいか、とか適当にやけっぱちに決める。

車中、当たり障りのない会話をしながら1時間ドライブ。



で、辿り着いたら結構感動した。大きな風車がモニュメントのように立ち並び、そのプロペラを海風が撫でるように回している。

見渡す限りずっと干潟が続き、

小さな蟹やムツゴロウが泥の上を歩いている。それを鷺がついばんでいる。

木製の遊歩道みたいなところもあって、干潟の湿原の真ん中を渡ることができる。

気持ちも高揚して、台湾は偉いですよ、原発からクリーンエネルギーに切り替える選択をして、みたいなことを一生懸命説明するとおじさんは目を細めてウンウンと頷いている。

帰り道、すっかり打ち解けた我々は、ラインの交換なんかして、今、実は台北のギャラリーで展示してるんですよ、それはおめでとう、台南に行くなら奇美博物館とか行くといいよとか何とか話したりする。

ホテルに着き、じゃあ今日はどうもありがとう、楽しかったよってカードで払おうとすると、カードが使えないことが判明する。で、慌てたのはおじさんで、色々付属の外付けマシンをいじくってみるけどいっこうに埒があかない。それならセブンイレブンに行けばカードでお金が下ろせるからといって最寄のセブンイレブンに連れて行かれるが、そこのキャッシュディスペンサーみたいなのは全て中国語で全く分からない。うへー、やばいって店員のお姉さんに聞いてみても、お姉さんも英語がわからずもうお手上げ、ってなった時、店内でこちらを伺っていたお客の青年がいきなり話しかけてくる。このクレジットカードはここでは使えないが、銀行ならキャッシングすることができる的な事を英語で教えてくれ、外に出てやきもきしながら待っているタクシーのおじさんと色々話してくれ、結局、ホテルの部屋に戻って日本円をとってきてそれを台湾元に両替して支払うということになる。いや、まあ、参った、焦った。青年には感謝しかない。青年に幸あれと心から願う。

ホテルで台湾ビールを飲んで一休みしてから晩ご飯を食べに外に出る。だいたい一番最初に書かれているメニューを内容も分からないまま指差す。美味。
夜、タクシーのおじさんからお礼のラインが届く。